安全靴とは、主に工事現場や重機、重量のある部品を取り扱う工場内外や、鉱業、建設業などの足への危険を伴う作業場で使用される着用者の足を保護することを目的としたつま先部に規定された強度をもつ先芯を装着した靴を言います。一般的にはJISに近いつま先の安全性能を持つプロテクティブスニーカーなどを総称して「安全靴」と呼ぶ場合がありますが、正しくはJIS(JIS T 8101)に合格した靴を「安全靴」と呼び、これは「JISマーク」の表示をしていることで確認することができます。また、人体に帯電した静電気を靴底から逃がすことを目的とした静電気帯電防止靴(静電靴)にもつま先の安全性能が要求されるものがあり、これらは静電安全靴と呼ばれ、有機溶剤や引火性のガスを取り扱うコンビナートや爆発の危険性のある物質を取り扱う作業場などで使用されています。
( 静電気帯電防止靴には、つま先部の安全性能が要求されない静電作業靴があり、これらは主に静電気による電子素子の破壊防止を目的とし、半導体などを取り扱う作業で使用されます。)
※日本産業規格(JIS) は、産業標準化法に基づき日本産業標準調査会の答申を受けて、主務大臣が制定する産業標準であり、日本の国家標準の一つです。
この適合性の認証を受けた製品には、JISマークを表示することができます(JISマーク表示制度)。
JIS T 8101 安全靴
ISO 国際規格の定義に合わせて「作業時の事故によって生じる障害から着用者の足を保護するための機能を組み込んだ靴」という定義となりました。
JIS T 8106 安全靴・作業靴の耐滑試験方法
安全靴の性能の中で、特に試験条件が複雑な耐滑の試験方法を独立して規定したものです。
ISO 13287(耐滑試験方法)のMOD 規格です。
JIS T 8107 安全靴・作業靴の試験方法
いままでJIS T 8101 の中で規定していた試験方法について、ISO 国際規格に合わせてJIS T 8107 として独立した試験規格になりました。
JIS T 8108 作業靴
今回新規に制定された規格であり、定義は「作業時の事故によって生じる障害から着用者の足を保護するための機能を組み込んだ靴。ただし、安全靴のつま先部に装着される先芯を装着していないため、つま先部の防護性能を必要としない用途向けとする。」と定義しています
JIS T 8103 静電気帯電防止靴
「作業者及び履物の静電気帯電が原因となって発生する災害及び障害を防止する目的で使用する静電気拡散性及び静電気導電性を有した靴」という定義になります。
ISO 20344 個人用保護具
- Test methods for footwear(靴の試験方法)
ISO 20345 個人用保護具
- Safety footwear(安全靴)
ISO 20346 個人用保護具
- Protective footwear(保護靴)
ISO 20347 個人用保護具
- Occupational footwear(作業靴)
ISO/TC94/SC3 安全靴
国内対策委員会を運営委員会の中で1 回/ 月開催しています。日本はISO/TC94/SC3 の議決権をもつP メンバーとなっています。
ISO/TC94 個人用保護具
国内審議委員会を1 回/3 か月開催、SC3 として参加しています。
ISO/TC94/SC14 消防士用個人防護装備
国内審議委員会を1 回/3 か月開催、SC3 として参加しています。
クラスⅠ(CⅠ)
甲被は革製とし、表底その他の材料から作られる靴
クラスⅡ(CⅡ)
総ゴム製(加硫式)又は総高分子製(一体成型式)の靴
超重作業用(U)
つま先部の耐衝撃性能200J・耐圧迫性能15kN を満たす靴
重作業用(H)
つま先部の耐衝撃性能100J・耐圧迫性能15kN を満たす靴
普通作業用(S)
つま先部の耐衝撃性能70J・耐圧迫性能10kN を満たす靴
軽作業用(L)
つま先部の耐衝撃性能30J・耐圧迫性能4.5kN を満たす靴
耐踏抜き性(P)
試験用くぎの貫通時の力が1,100N 以上であるもの。同時に踏抜き防止板の構造、耐食性、耐屈曲性が規格値を満たすことが求められています。
かかと部の衝撃エネルギー吸収性(E)
表底の衝撃エネルギー吸収性が20J 以上であるもの。
足甲プロテクタの耐衝撃性(M)
足甲部への衝撃を緩和する性能で、粘土の最低部の残厚に試験用靴型の切欠き部底厚を加えた最低部の高さが25mm 以上であるもの。
耐滑性(F)
靴底の滑りにくさの程度を示す性能で、靴底の動摩擦係数が0.20 以上は区分1(F1)、0.30 以上は区分2(F2)の2 区分ある。
耐水性(W)
クラスⅠ(革製)の安全靴においての耐水性の程度を示す。
耐切創性(C)
安全靴の耐切創性の程度を示す性能で、同時に耐踏抜き性も規格値を満たすことが求められています。
電気絶縁特性(I)
安全靴の電気絶縁性の程度を示す性能で、電路の交流電圧区分によって300V 超600V 以下は記号I-600、600V 超3500V 以下は記号I-3500、3500V 超7000V 以下は記号I-7000 の3 つの種別あり。安全靴に使用する先芯は鋼製は使用してはならない。
靴底の高温熱伝導性(HI)
安全靴の靴底の高温に対する内部までの熱伝導性の程度を示すもので、靴内部が規定温度になるまでの温度上昇時間によって、20 分以上30 分未満は区分1(HI1)、30 分以上は区分2(HI2)の2 区分ある。
靴底の低温熱伝導性(CI)
安全靴の靴底の低温に対する内部までの熱伝導性の程度を示すもので、靴内部が規定温度になるまでの温度低下時間によって、20 分以上30 分未満は区分1(CI1)、30 分以上は区分2(CI2)の2 区分ある。
表底の耐高熱接触性(H)
表底が高熱と接触したときに溶融しない性能を示します。
表底の耐燃料油性(BO)
表底の燃料油に対する膨潤、収縮の性能を示します。
甲被の耐燃料油性(UO)
甲被の燃料油に対する膨潤、収縮の性能を示します。
※これら種類と付加的性能については、安全靴あるいは箱に表示されています。
例 1【 安全靴 CI/S又はCI/S/PB 】・・・・ 革製の普通作業用安全靴
例 2【 安全靴 CI/S/P】・・・ 耐踏抜き性能を持った、革製の普通作業用安全靴
【JIS T 8101が安全靴に求める基本性能】
耐衝撃性能とは、つま先部に重量物が落下した時に、その衝撃から着用者のつま先を守る性能のことです。
JIS T 8101 においては、2020年の改訂によって超重作業用(記号U)、重作業用(記号H)、普通作業用(記号S)、軽作業(記号L)の4
種類に分類されており、使用用途に合わせてご選択頂くための基準となっています。尚、我が国においては普通作業用が最も汎用的に使用されています。
【JIS T 8101が安全靴に求める基本性能】
耐圧迫性能とは、つま先部に重量物が乗りかかった時に、その荷重( 圧迫力) から着用者のつま先部を守る性能のことです。 JIS T 8101 においては、2020年の改訂によって超重作業用(記号U)、重作業用(記号H)、普通作業用(記号S)、軽作業(記号L)の4種類に分類されており、使用用途に合わせてご選択頂くための基準となっています。尚、我が国においては普通作業用が最も汎用的に使用されています。
【JIS T 8101がクラスIの安全靴に求める基本性能】
表底のはく離抵抗とは、クラスⅠの安全靴において表底と甲被の接着強度を表します。 JIS T 8101においては、2020年の改訂によって超重作業用(記号U)、重作業用(記号H)、普通作業用(記号S)は300N以上、軽作業用(記号L)は250N 以上のはく離強度が求められています。
【JIS T 8101がクラスⅡの安全靴に求める基本性能】
漏れ防止性能とは、クラスⅡの安全靴において、水が靴内部に滲み込むことを防ぐ性能のことです。JIS T 8101では、水中に入れたクラスⅡの安全靴に内圧が8kPaになるまで空気を送り込み、気泡が連続して出ない性能が求められています。
【JIS T 8101が安全靴に求める付加的性能】
耐踏抜き性能とは、くぎなどの鋭利なものが表底を貫通し、足裏に損傷を与えることを防止する性能のことです。JIS T 8101では、この付加的性能をもつ靴には、表底に垂直に立てた試験用くぎに1100Nに達するまで圧迫力を加えて、釘の先端が完全に貫通していないことが求められています。
【JIS T 8101が安全靴に求める付加的性能】
かかと部の衝撃エネルギー吸収性能とは、歩行時などにかかと部に加わる衝撃を靴底などに吸収させ、足への負担を軽減させる性能のことです。JIS T 8101 では、この付加的性能をもつ靴は、吸収エネルギーが20J以上であることが求められています。
【JIS T 8101が安全靴に求める付加的性能】
足甲プロテクタの耐衝撃性とは、先芯では防護できない足甲部をプロテクタで覆うことにより、落下物から着用者の足甲部を防護する性能のことです。足甲プロテクタには、製品に最初から固着されている「固着式」と靴紐などを利用して後から装着する「着脱式」があります。JIS T 8101では、「固着式」が適用され、この付加的性能をもつ靴は試験用靴型を装着した製品の甲部に100Jの衝撃エネルギーを加えた時に、衝撃により変形した試験用靴型の甲部のすきまは25mm以上であることが求められています。
【JIS T 8101が安全靴に求める付加的性能】
耐滑性能とは、滑りによる転倒事故を防ぐための性能のことです。 JIS T 8101では、2020年の改訂及び2024年の追補改正によってこの付加的性能をもつ靴には靴底の動摩擦係数が区分1(F1)では0.20 以上、区分2(F2)では0.30 以上であることが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
耐水性能とは、クラスⅠの安全靴において、水が靴内部に滲み込むことを防ぐ性能のことです。JIS T 8101 では、靴を水槽中に設置した屈曲試験機に取り付け、毎分60回の速度で80分屈曲したときの靴内部の湿った部分の総面積が3cm2 未満であることが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
耐切創性とは、安全靴又は作業靴の切断に対する抵抗性のことです。 JIS T 8125-3(手持ちチェーンソー使用者のための防護服―第3部:履物試験方法)の試験方法に従い、靴を締め具で固定し、靴内部にサイジングボディを挿入し、革の左側、甲部、脚の前面、及び安全靴の場合は先芯の左側について、チェーンソーで切断試験をおこなったとき、試験片にカットスル―が生じてはならない。また、耐切創性をもつ安全靴は、耐踏抜き性についても要件に適合しなければならない。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
電気絶縁特性とは、クラスⅡの安全靴又は作業靴に高電圧を印加したときの絶縁性能(帯電性能)のことです。 JIS T 8010(絶縁用保護具・防具類の耐電圧試験方法) の試験方法に従い、靴を試験機に装着し、絶縁靴の種別に応じた試験電圧を印加したとき、1分間通電しないことが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
靴底の高温熱伝導性とは、高温の床面からの安全靴又は作業靴の断熱性能のことです。サンドバス中に設置した150℃の熱盤上に靴試料を置き、規定部位まで砂を入れ、中底の初期温度から22℃上昇するまでの時間が区分1(HI1)では20分以上、30 分未満、区分2(HI2)では30 分以上であることが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
靴底の低温熱伝導性とは、低温雰囲気中の安全靴又は作業靴の断熱性能のことです。断熱低温槽中に設置した靴試料に鋼球を挿入し、中底の初期温度から10℃低下するまでの時間が区分1(CI1)では20 分以上、30分未満、区分2(CI2)では30 分以上であることが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
表底の耐高熱接触性能とは、表底を高熱物体に接触させたときの耐溶融性能のことです。300℃の銅盤の下に試験用プレートを挿入し、20kPa で60秒加圧してから取り出し、室温まで冷却した後、直径10mmの丸棒に沿って試験プレートを曲げたときに試験片の表面に溶融、焦げ、亀裂又はひび割れがないことが求められています。
【JIS T 8101 が安全靴に求める付加的性能】
表底の耐燃料油性とは、表底の燃料油に対する耐久性能のことです。表底試料を23℃に調整したイソオクタン中に20時間浸せきし、取り出した後体積変化率を測定したとき、体積変化率が-12% ~+12% であることが求められています。
【JIS T 8101がクラスⅡの安全靴に求める付加的性能】
甲被の耐燃料油性とは、クラスⅡの安全靴の甲被の燃料油に対する耐久性能のことです。甲被試料を23℃に調整したイソオクタン中に20時間浸せきし、取り出した後体積変化率を測定したとき、体積変化率が-12% ~+12% であることが求められています。
【JIS T 8101が安全靴に求める基本性能】
着用耐久性とは、靴底の中間層にゴム、ポリウレタン以外の素材を使用する場合の着用を想定した劣化条件に対するつま先部の防護性能の耐性のことです。靴を60℃、80%RH条件下での老化試験を行った後に衝撃試験及び圧迫試験を行い、中底と先芯とのすき間寸法の規格値が規格値を満たし、且つ先芯の割れやフェザーライン部に剥がれが生じないことが求められています。
【JIS T 8103 が静電気帯電防止靴に求める基本性能】
静電靴等の帯電防止性能は、JIS T 8103 に規定する試験方法で試験したとき、靴1 個当たりの電気抵抗(R)が、下表に適合しなければならないと規定されています。また帯電防止性能は、測定値では15 秒値と1 分値の両方を満たし、かつ、試験したすべての試料の測定値が規格値を満たさなければならないことになっています。
注記1)測定温度23±2℃における電気抵抗の測定では、環境区分ごとに、相対湿度を次のように設定する。
環境区分1 (12±3)%
環境区分2 (25±3)%
環境区分3 (50±5)%
また、測定温度+20℃では相対湿度を定めない。(但し結露しないこと)
注記2)低電圧(交流200ボルト程度まで)での感電防止性能はありますが、交流300ボルトを超える場合は、絶縁用保護具が必要です。
注記3)温度0+20℃において電気抵抗の上限が23±2℃のときよりも大きいのは、一般に表底材料の電気抵抗が温度の低下とともに増加することを考慮したものである。ガス及び蒸気も温度が低くなるほど着火しにくくなるので、災害防止性能を低下させるものではない。
【上表の語句の説明】
一般( 一般静電靴)
上表の一般種別の2 温度条件における電気抵抗値が規定の範囲を満たす静電靴で、広く一般用途に用いられる。
特種( 特種静電靴)
上表の特種種別の2 温度条件における電気抵抗値が規定の範囲を満たす静電靴で、最小着火エネルギーが極めて低い(着火し易い) 可燃性ガス(水素、アセチレン、二硫化炭素) や爆発性の粉じん等が存在する環境下での特殊用途に用いられる。
環境区分
試験する靴の種類及び予想される使用環境(温度及び相対湿度) に従って選定される区分であり、JIS C 61340-4-3 の表1(電気的測定のための環境条件) に規定されている。